【鍼灸の基礎知識】医療・美容・スポーツ界で注目される「鍼灸」とは

【鍼灸の基礎知識】医療・美容・スポーツ界で注目される「鍼灸」とは

「鍼灸」とは、中国発祥の歴史と伝統のある医学の流れをくみ、日本に伝わってからも民間医療としても長く親しまれてきた治療法です。また東洋医学の代表的な施術方法のひとつである鍼灸は、投薬や外科的治療以外で患部の症状を緩和したり、病気を未然に予防したりする効果が期待されるとして、近年、世界的にも注目されています。慢性的な病気やけがの後遺症への緩和治療、それらの防止のための施術は、一流アスリートの身体ケアに欠かせないものになりつつあり、今後、鍼灸を活用した治療はさらに需要が増えると考えられます。また、美容関係の世界でも美容鍼灸として取り入れるところも増えてきています。その「鍼灸」の技術と、施術者である「鍼灸師」について紹介します。

その歴史、鍼灸のルーツ

「鍼灸」は、東洋医学の代表的な施術方法のひとつです。その日本での歴史から見てみましょう。

東洋医学と鍼灸

私たちが街の病院や診療所で受けている治療は西洋医学に基づくものが一般的で、積極的に薬や手術という手法を用いて、直接的に患部の治療・治癒を目指す医療です。その一方で、2000年の歴史を持つといわれる東洋医学は、本来の、自分の身体を自身の力で回復させようとする自然治癒力を、最大限に活かして治していくという考え方の医療です。そうした東洋医学の施術のひとつに鍼灸があります。以下では、鍼灸について東洋医学の基本も交えながら紹介します。ただし、ここでの「東洋医学」とは、インドのアーユルヴェーダや中東のユナニ医学を含まない狭義の東洋医学である点を、事前にお伝えしておきます。

日本における鍼灸の歴史

東洋のなかでも主に中国を発祥の地とし、その長い歴史とともに発達した東洋医学は、5世紀ごろから遣隋使や遣唐使が日本と中国を往来していた7世紀ごろにかけて、日本に伝来したとされています。その後、日本人自らの手で鍼灸は研究され、施術が継続されて独自の発展を遂げました。1895年以降、日本の医療体制は明治政府の方針で西洋医学に統一されることになりましたが、第二次大戦のあとには、西洋医学を補う目的で研究され、治療方法の一部として用いられるようにもなり、日本において独自の発展をしました。さらに東洋医学における鍼灸は民間医療としても親しまれてきました。現在では、腰痛や肩こりのような慢性的な不調の改善とその予防、手術後のケアなどに東洋医学の治療が用いられています。

鍼灸の「技」とその効果

それでは、東洋医学のなかでも代表的な鍼灸の技について見ていきましょう。

鍼灸の基本

身体にあるツボについては、押すと気持ちが良かったり痛かったりしますが、ツボを刺激することで身体のある部分や内臓機能の改善を促す効果があるとされています。ツボを東洋医学では「経穴」と呼びます。ツボは身体に360カ所余り存在するとされ、ツボとツボの間には「経絡」が、身体の至るところとつながるように張り巡らされているとされています。その経絡を巡るのが「気血」です。東洋医学の中心概念である気血とは、「気=目に見えない体内におけるエネルギー」と「血=血流・体液など」意味し、身体の活動の正常化・活発化をつかさどるものとされています。東洋医学では、ツボを刺激することで気と血のバランスや活動が改善され、症状の緩和や機能の回復を促し、もとの健康的な状態の身体を取り戻せるようになると考えられています。

このツボの刺激に使われるものは指先だけではなく、「鍼(はり)」や「灸(きゅう)」もあり、それが鍼灸という施術方法になるわけです。鍼や灸でツボに当たる場所の皮膚や筋肉などの組織に刺激や微小なダメージを与えることで、それを修復しようとする細胞の活性化の力を利用し、自然治癒力・免疫力を高める仕組みです。

鍼灸の技術とその効果

ツボへの刺激を与える器具としては鍼や灸が使われます。そのひとつである鍼の太さは0.14~0.34mmと医療用の注射針よりも細いものになるので、痛みはほとんどありません。施術対象によりツボの場所も針を刺す深さも異なり、鍼に微弱な電流を流し、刺激をより効果的にする方法もあります。

もうひとつの灸は、艾(モグサ)というヨモギの葉の裏にある繊毛を小さく固形化したものをツボの上に置き、それを燃焼させた熱による刺激を与える方法です。艾の大きさや硬さで燃焼時間や熱さが異なるため、治療目的で使い分けることになります。

鍼や灸による刺激を使って機能や症状を改善させる対象の患部や症状は、ツボとのつながりがある箇所になります。約360カ所に及ぶツボと、それぞれの効果、さらに鍼の刺し方や灸の量などの組み合わせにより施術を行うので、ひと通りそれらの基本技術を習得し、経験を積んでいくことが鍼灸師としての技術上達の道となります。

鍼灸による施術は、腰痛、肩こりのような関節や筋骨格系の治療に活用されるほか、頭痛、不眠、便秘、疲労、倦怠(けんたい)感などの症状改善にも効果が期待されます。医療においてはさまざまな見地も含め、出された評価をすべて鵜呑みにすることは危険ですが、1997年米国の国立衛生研究所が召集した鍼に関するパネル会議において、幾つかの症状に対して補助療法として有効か、包括的患者管理計画に含めることができる可能性があると合意声明が出されたほか、WHO(世界保健機関)の2002年のレポートには、臨床試験により鍼が各種の疾患・症状に有効であるという記述があり、鍼灸の効果や役割がさらに世界で注目されるようになりました。 実際に、一般的な医院や病院で治療をしながら、あるいは治療が終了したあとに、患部や身体の機能改善や回復を促し、再発を防ぐなどの目的で鍼灸院へ通院する人も少なくありません。

鍼灸の注目分野と将来性

慢性的な症状、けがで痛みがひかない場合、肩こりや腰痛などに対する施術というイメージがあった鍼灸。しかし、上記で紹介したように長年培われてきた技術が、多くの分野で今、求められているのです。

美容やスポーツの世界でも注目の鍼灸

鍼灸の施術を行っている場所としては、街で看板を見かけるような「鍼灸院」が代表的です。そこで施術を行う鍼灸師は、はり師、きゅう師の資格を取得した専門家です。しかし鍼灸師の活躍の場はそこだけにはとどまりません。まず、けがの治療や手術などのあとに行う治療方法のひとつとして、鍼灸を活用している病院やクリニックなどの医療関係の施設があります。西洋医学による治療のほか、身体が自然に回復しようとする力を手助けする東洋医学の鍼灸を補助的に使うケース、あるいは症状によって最適な治療法を選択するために西洋医学と東洋医学を総合的に活用するケースです。同様に、慢性病や加齢から来る身体の不調に悩む高齢者へのケアとして、介護・福祉関係の施設で鍼灸を施術することもあります。

そして、医療機関や介護福祉施設以外で鍼灸を活用しているのが、スポーツジムです。スポーツジムで身体を鍛える人のなかには、プロ、アマチュアを問わず、激しい練習やけがによる身体の不調に悩む人が少なくありません。そのケアや防止のために鍼灸が活用されています。また、スポーツ選手が治療や身体のケアのために用いた薬剤がドーピング検査に引っかかることを心配して、鍼灸を活用したケアを積極的に行うケースもあります。

さらにエステサロンのような美容業界でも、健康的な身体から生まれる美しい肌や、理想的な体形を得ることが重視され、人間本来の回復力や調整力を活かしていくことができる鍼灸が注目されているのです。

鍼灸のプロフェッショナル「鍼灸師」になるには

プロの鍼灸師になるには国家資格の取得が必要で、その資格は鍼と灸に分かれています。どちらも身体にあるツボとその治療効果との関係や、鍼や灸という特殊な器具を用いた治療を行う専門知識と技術を習得していることを認める国家資格です。鍼と灸のどちらかひとつの資格のみでも仕事は成り立ちますが、より効果的な治療結果を得るためには、両方の資格を所有していることが求められるでしょう。

鍼灸師になるための資格とその道のりについては、「鍼灸師になるための資格は必要?その道のりや国家試験について」をご覧ください。

活躍の場が広く、将来有望な鍼灸師

高齢化が進む日本において高齢者が健康的に長生きをするためにも、自然治癒力を活性化させたり、足腰の痛みを緩和して日常的な動きをサポートしたりするためのケアが求められており、介護福祉施設での鍼灸師の需要は高くなると予想されます。さらに、医療の分野では西洋医学、東洋医学の両方を活かした総合的な治療を提供する施設も増えています。病気やけがの回復を促したり、予防を心がけたりすることを目的として、鍼灸によるケアが注目を集めているのです。このように健康的に美しく、長く、活躍することを求める人が増える社会において、鍼灸師の活躍の場は広がるだろうと考えられます。

将来有望な職業である鍼灸師。まずは専門的な知識と技術をきちんと身につけ、社会に貢献できる鍼灸師を目指しましょう。

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